海岸防災に欠かせない海岸保全施設の点検にドローンを活用。東京都港湾局とレベル4を見据えた飛行試験を実施

1 ヶ月前 18
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台風などの災害が発生した際、高波や高潮によって内陸まで海水が浸入すると、大きな被害をもたらすことがあります。そんな脅威から私たちの命や暮らしを守るために設置されている防潮堤や内部護岸設備といった海岸保全施設の点検作業に、ドローンを活用する飛行試験が東京・夢の島で行われました。

どのような取り組みか、今回共同で試験を行った東京都港湾局とソフトバンクの担当者に話を聞きました。

港湾整備部 計画課 水防対策担当 主任

橋本 康平(はしもと・こうへい)さん

ソフトバンク株式会社 テクノロジーユニット統括 プロダクト技術本部
技術企画開発統括部 事業企画推進部

神谷 義孝(かみや・よしたか)さん

高潮や津波などによる災害から私たちを守る砦、海岸保全施設とは

「海岸保全施設」とは、高潮や津波による海水の浸入を防ぐための防潮堤や内部護岸、砂浜などのことで、海岸法に基づき指定されている海岸保全区域内に設置されています。皆さんも、海の近くなどで見かけたことがあるのではないでしょうか。

防潮堤

内部護岸

水門

私たちの安全や財産を保護する役割を持つ海岸保全施設は、いつ発生するか分からない災害に備え、常に健全性を維持することが重要になります。台風による高潮や津波、地震に耐えられるよう、海風や波による老朽化・損傷が発生していないか、定期的な点検が実施されています。

今回飛行試験が行われた東京都の23区東部エリアには、満潮時に海面以下となる海抜ゼロメートル地帯が広がり、約 150 万人が生活しています。高潮や津波による浸水で甚大な被害に見舞われぬよう、東京都では防潮堤、水門、排水機場等の海岸保全施設の維持・整備に取り組んでいます。

広範囲にわたる海岸保全施設をドローンが点検。目視外による飛行試験を実施

今回の試験ではどのようなことを行ったのでしょうか?

神谷さん 今回実施したのはカメラを搭載したドローンを飛行させ、夢の島付近の防潮堤、内部護岸の映像をリアルタイムで中継する点検飛行試験です。東京都港湾局の「令和5年度ドローンを活用した海岸保全施設の点検導入検討委託」事業をわれわれソフトバンクが受託し、レベル4飛行を見据えたドローンによる護岸点検の実現を目指して昨年から取り組みを行ってきました。

  • レベル4飛行:住宅やビルなど人口が集中しているエリアなどにおいて、補助者の配置なく目視できない範囲で、ドローンを自動飛行させること。
ドローンから送られてきた映像

神谷さん 今回の試験では、あらかじめ設定した飛行ルートに従い、護岸に接近した映像を、離れた発着点のモニターでチェックするなど、点検ポイントへの飛行精度や映像品質の確認を実施しました。

東京の都心部で試験を実施するにあたり、どのような準備を行ったのでしょうか?

神谷さん 都心での試験飛行ということで、安全な飛行を行うために関係各所との調整や手続きが必要になります。電車が運行する高架下を通過するため、鉄道事業者さまとの協議や、運河の飛行について海上保安庁との調整を実施しました。また、目視外飛行にあたっては国土交通省の航空局への申請も必要になるなど、都心部での飛行ならではの事前調整が大変でしたね。

ただ諸々の調整を経験したことで、都心部でドローンを点検業務に導入するために必要となる調整事項が明確になり、今後さまざまな分野でのドローン導入のサポートに生かしていけると思います。

また、今回は安全に飛行するために、水路を航行する船舶との接触などを防げるよう緊急操縦者や船舶監視者を配置し、万全の体制で試験を実施しました。

ドローンの特性を生かし、災害時の迅速な点検作業での活用を目指す

普段はどのように点検作業を行っているのでしょうか。

橋本さん 通常は、陸上からの目視点検を月に3回実施しています。点検では、目視で確認できるレベルの護岸の変状やクラックの有無を確認し、不法投棄や不法侵入についても監視を行っています。さらに3年に一度、護岸の高さに変化がないか、計測も行っています。

護岸の状況を目視で確認

今回飛行試験を行ったドローンによる点検作業は、どのようなシーンを想定したものでしょうか?

橋本さん 今回の試験は、主に災害発生時の施設点検を想定したものになります。東京都港湾局では、災害発生時の道路閉塞などで人による施設の点検が困難となることを想定し、安全かつ迅速に被害の有無を把握するため、ドローンによる遠隔点検を検討しています。

現時点は災害時を想定したものですが、災害時だけでなく平常時においても活用できると考えています。

今回の飛行試験において、ソフトバンクはどんな役割で参加したのでしょうか?

神谷さん 東京都港湾局からの委託に基づき、今回の飛行試験全体の統括、試験に適した機体の選定、飛行試験結果のとりまとめを行いました。また、ドローンからの映像を送信するためには通信回線が必要になりますので、通信で利用するLTE回線の上空利用申請や、上空における電波測定も実施しました。

飛行試験で利用したドローン機体は、ソフトバンクと双葉電子工業が共同開発した産業向けのドローンで、海岸保全施設の点検以外にも、鉄塔や工場、建設現場の点検や測量、災害支援などで活用されています。

飛行試験を終えて、感想をお聞かせください。

橋本さん 撮影データは施設点検に十分活用できるレベルでした。今回の飛行試験では運河を挟んで対岸の護岸も撮影しましたが、フレキシブルに広いエリアを移動できるドローンの特性を生かした施設点検を行うことができました。また、想定している飛行高度や橋梁下面においても電波の受信が確認できたことは、今後の点検範囲の拡大に向け有意義な実証であったと思います。

神谷さん 本試験により、まずはドローンで撮影した画像をクラウドにアップロードし、護岸の状況を確認できました。今回の結果を踏まえ、今後も引き続き、点検業務におけるドローン利用浸透を推進するとともに、都市部でのドローン活用の拡大を目指し取り組みを継続していきたいです。

試験結果を踏まえ、今後の海岸保全点検においてドローンによる点検と人による点検、それぞれの役割をどのようにお考えでしょうか?

橋本さん 東京港の海岸保全施設は人口集中地区に位置しているものがほとんどで、直ぐに全ての海岸保全施設でドローンによる遠隔点検するにはまだ課題があることも確認できました。

当面は、例えば管理事務所から離れた海岸保全施設は自律飛行による点検を行い、比較的近い位置にある海岸保全施設については、操縦飛行による点検や従来の目視点検を行うなど、自律飛行と操縦飛行を組み合わせた効果的な点検手法について検討ができればと考えています。

ありがとうございました。

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ドローンを活用し、危険をともなう高所の撮影や状況確認などあらゆる点検作業を自動化し、安全で効率的な作業を実現します。

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(掲載日:2024年4月8日)
文:ソフトバンクニュース編集部

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