繭から羽化した「ピリングス」が守り続ける、自他の弱さを受け止める想像力と包容力としてのファッション

2 ヶ月前 12
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歳を重ね経験を重ねるほど、人は強さや逞しさを手にし、大人らしく振る舞うことを覚えていく代わりに、いつしか人に弱さを見せることが難しくなっていく——ファッションの世界においても、「美しくありたい」「強くありたい」「洗練されていたい」「エレガントでありたい」といったポジティブな大人の理想像を叶えてくれるブランドは数多くあり、実際そういった服の存在に日々助けられ、力や自信をもらっている人は多いだろう。しかし、家に帰ってひとたびその服を脱いだ時、ふと我に返ってこう思うことがある。「自分の中に確かに存在するこの弱さやままならなさは、大人らしくない恥ずべきものとして、秘匿しなければならないのだろうか」と。  今シーズン、「アキコアオキ(AKIKOAOKI)」は、「自室で服を脱ぎかけ(着かけ)ている女性の姿」という、女性がファッションという「武装」を解く過程に美意識を見出したコレクションを発表したが、村上亮太が手掛けるブランド「ピリングス(pillings)」は、大人の理想像とは対極にあるような、「不器用で、社会との折り合いがなかなかつかず、生きづらさを感じている人」という人間像を、これまで一貫して提示し続けてきた。そのような人間像は、一般的に社会の中では決して褒められた姿ではないはずだが、その内向的で、不恰好で、人付き合いや生活のままならなさが表出したような世界観とデザインは、着実に人々の心に寄り添い、支持を集めてきた。  そんなピリングスも、昨年12月にサザビーリーグの仲間入りを果たした。大きな後ろ盾を得て初めて臨むコレクションでは、いったいその人間像にどのような変化が生まれるのか。期待と一抹の不安が入り混じる中、今回村上のクリエイションから受け取ったのは、「自分の中の弱さやままならなさを肯定し受け入れることは、他者の弱さや痛みを想像し受け入れることのできる強さや包容力に繋がるのではないか」という示唆と、「これまで大切にしてきたものは何も変えず、それらを全て携えながら未来へ進んでいく」という、ブランドとしての明確な意志だった。 このコンテンツは FASHIONSNAP が配信しています。
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